2.先端機能を集約した新病棟と3敷地3棟の既存建物の再編
2本の公道によって分け隔てられた3つの敷地に建つ建物を、上空連絡通路によって接続した。
新病棟:急性期、3病棟:亜急性期、5病棟:回復期 と病棟の役割を3つに分け、患者・スタッフの移動の安心安全を最優先に考えシームレスな医療サービスを実現すべく計画した。
公道上空の24.8m、23.4mのロングスパンを、フィーレンデールトラス構造で架け渡すことにより、道から背後の山々の稜線を望むことができる透明性を獲得した。(背後の山は城山、七つの尾根を持つことから七尾という地名の由来とされている)
3.将来の機能拡張・改編に配慮した建築構造計画
病院建築は医療技術の革新に伴い将来的な機能改修が繰り返されている。そこで階高はそのまま、設備増強の際にも天井内配管が十分に確保されフレキシビリティの高い計画を『SFMS』によって実現。 建物が設備に追い付かなくなり、建替えを行う事例が多くみられる時代において、フレキシビリティの高い建物は長寿命化が可能であり将来に亘って環境負荷低減に貢献する。
4.臨海立地のアメニティを享受しつつ 災害に強い病院
本計画は基本設計完了後、東日本大震災が発生、地域医療を支える中核施設としての事業継続計画(BCP)のあり方を見直すこととなった。
臨海立地であることが、眺望や五感に訴える癒しとして有用である一方で、海の脅威、地盤の安全性など、想定されていなかった問題を孕んでいたことが思い知らされた。
詳細設計時に様々な検討を行い解決する方策を検討した。
地震に強い=揺れ・液状化・津波に対しても安全を支える構造計画
災害時の揺れによる医療機器の破損、家具の転倒による患者の負傷等を低減するため、免震構造を採用。
また、能登半島地震でも発生していた液状化には、対策として有効な格子状地盤改良(TOFT)を採用。
津波対策
水害・津波対策においては、七尾市地域防災計画の想定浸水標高2.9mに対して、1階床レベルを3.5mにかさ上げをし(免震層かさ上げ)、建物内部へ津波が浸水しないようにした。また、擁壁の強度についてもガイドラインを基に検討を行った。
また非常用発電・受変電設備・熱源設備は屋上階に設置、メインサーバー室を上階に設置、2回線受電方式を採用した。
災害時の拠点として地域を守る
屋上は、海上保安庁ヘリ、県の防災ヘリを受け入れ可能な仕様として設計、海難事故・災害、他地域からの患者の転送等も想定。
中間階屋上は水害・津波時は周辺の海抜の低い地域住民の避難施設として想定。1階シーサイドホールもトリアージスペースとして使用できる設備を設け、救護拠点としての役割を果たす。
伝統×レンガ調タイル
長年この地で親しまれてきた既存建物のレンガ調タイルを踏襲しながら、せっ器質タイルのスクラッチ跡や赤黒く窯変したものを織り交ぜ温かみのある素材感を表現。
おもてなしの心×サイン
サインに波状のテクスチャーをもつファブリックのクロス等を用い、その凹凸感を活かしウォールウォッシャー照明による演出.誘導する目的のサインに、柔らかさの表情を与えた。
地産地消×アートワーク
地域の伝統工芸である木組み格子を用いたライトボックスをアクセントに、波をイメージしたテクスチャーの七尾産珪藻土塗壁をくつろぎの場となるシーサイドホールに展開
地産地消×環境制御
能登杉材を使用したルーバーによって海への眺望を遮らない程度に西日の日射遮蔽を行っている。太陽光シミュレーションによって夏場の16時頃のまぶしさを低減(熱はLow-Eガラスにより低減)
眺望×ウェイ・ファインディング
訪れる人がルートに迷いがちな病院建築の閉じられた中廊下において、廊下の突き当りに配した開口部により海側・街側のオリエンテーションを感じることができる